個人事業主は法人化を目指すべき?法人化の目安とメリット・デメリット

個人事業主は法人化を目指すべき?法人化の目安とメリット・デメリット

個人事業主にとって、法人化(法人成り)はひとつの大きなステップアップと言えます。しかし、事業を進めるにあたり、必ずしも法人化したほうがよいというわけではなく、十分に検討すべきことと言えます。今回は「法人化」を検討する個人事業主の方に、法人化のメリットやデメリットをご説明します。

1.どれくらいの規模から法人化を考える?法人化することのメリットとは

事業がある程度大きな規模にならなければ、法人化のメリットは小さくなります。一般的には、事業所得が800万円を超えるあたりが法人化を検討するのに適していると考えられています。法人化する動機にはさまざまなものが考えられますが、特に税制上のメリットから法人化に踏み込む方が多いのはそのためです。

個人事業主が負担する所得税は「超過累進課税」という仕組みがとられており、所得が多い方により多くの税金が課されます。一方で、法人の場合は所得800万円を基準に税率は一律です。この計算上の仕組みから、所得800万円以下の場合は、所得税より法人税の負担の方が大きく、所得800-900万円で、所得税と法人税の負担が同水準となり、それ以上は所得税の負担の方が法人税より大きくなります。よって、所得800万円を超えるあたりが法人化検討の目安と言われています。

参考:国税庁「所得税の税率」 国税庁「法人税の税率」

その他のメリットについても確認しておきましょう。

個人事業主が法人化するメリット

・社会的な信用を得ることができる
個人事業主よりもハードルが高く、事業が継続される保証ともなり、社会的信頼を得やすくなります。経理においても、個人事業主より厳しい管理が行われていると見なされるでしょう。

・経費に計上できるものが増え、節税できる
節税対策のために法人化する人も多いと言えます。役員報酬や役員給与、法人名義で契約した生命保険料などを経費にすることができ、大きな節税が可能です。経営者本人の「旅費日当」(交通費以外にかかる出張中の食費・通信費など)も経費にできます。なお、従業員の旅費日当までであれば、個人事業主も経費計上することが可能です。

・10年間、赤字を繰り越すことができる
事業を継続していくと、大きな損失が出るようなチャレンジもあるかもしれません。損失が出た場合、個人事業主であれば「3年間」赤字を繰り越して控除を受けることができますが、法人であればこの繰り越し期間が「10年間」と長くなります。

・事業の責任を個人で負う必要がない(有限責任)
事業が失敗して借金を背負うことになる場合、個人事業主であればその責任のすべてを負い、全額を返還する義務が発生してしまいます。しかし、法人の場合は出資した金額までが責任の上限となりますので、それ以上のお金を支払う必要がありません。これを「有限責任」と言います。

・決算期(決算年度の最後の月)を自由に決められる
個人事業主は1年の所得を「1月1日~12月31日」で計算し、確定申告をします。つまり、12月が決算期・決算月であり、その月を自由に動かすことはできません。法人の場合、この決算期を任意の月に決めることができます。繁盛記を避ける、法律改正が多い時期を避けるなど、各業界において有利な月が選ばれています。12月以外に多いのは、3月、9月です。

2.もちろん、法人化することのデメリットも

個人事業主が法人化することによるメリットは多くありますが、デメリットもよく考えなくてはなりません。「自分がやりたいことを自由に」と考えている方には、窮屈な面が多い可能性も高いのです。

個人事業主が法人化するデメリット

・法人設立時や閉鎖時にさまざまな費用がかかる
法人の種類によって金額は異なりますが、登録免許税や定款認証手数料、謄本手数料、定款用収入印紙代が必要となります。また、事業内容を鑑みた資本金も必要です。認可制の業種の場合には、資本金の最低金額が決まっている場合もあります。

・多くの手続きや事務作業、それに伴う費用が発生する
法人だからこそ必要な手続きや書類は非常に多いものです。管理すべきことも増え、事務作業に手間取るおそれがあります。管理専門の人を雇ったり、弁護士や司法書士、税理士に依頼したりと、ここでも費用がかかる可能性があるのです。なお、従業員がひとりでもいれば社会保険加入の義務があり、厚生年金や健康保険料の半額を負担する必要があります。これにも、手続きと資金が必要です。

・赤字の控除繰り越しはできるが、税金の支払いは免除されない
法人が赤字になると、所得から計算される法人事業税と法人税はかかりませんが、法人住民税については資本金や従業員数から計算されるため、赤字でも支払いの義務が生じます。個人事業主の場合、住民税も所得税と同じく課されることはありません。

3.個人事業主のままできることはたくさんある

法人化すると、さまざまなメリットを享受することができ、事業を拡大しやすくなるでしょう。ただし、デメリットも多く、個人で事業を続けることのメリットが維持されるわけではありません。働き方だけでなく生活自体が大きく変わることも考えれば、「個人事業主ができる範囲で戦略的に事業を続けていく」のも、非常によい選択であると言えます。

なお、法人化のメリットの大きなひとつと言える節税ですが、これに関しても個人事業主のままできることはたくさんあります。Finタメ・マガジンでもご紹介しておりますので、ぜひご一読いただき、無理なく事業を続けていく方法を模索してください。

記事監修者紹介 久保佑紀先生久保佑紀税理士事務所 税理士
久保佑紀先生 久保佑紀税理士事務所

通信会社でシステムエンジニアとして働くが、結婚を機に退職。その後約10年間、中小企業の経理職や税理士事務所で働き、2023年に個人税理士事務所を立ち上げる。税務業務を中心にお客様のサポートをしながら、2 人の娘を育てるママ税理士。