扶養内でパートやアルバイトで働く方は、103万や130万といった年収の壁を気にされている方も多いかと思います。ここでは、扶養制度の基本や、それぞれの年収の壁の意味合いを解説いたします。働き方や生活に密接に関わる考え方になりますので、しっかり理解しておきましょう。
扶養とは、収入が十分でない家族を、収入のある家族が生活面でサポートする制度です。具体的には、扶養をする側(扶養者)と扶養される側(被扶養者)に分かれ、税制上や社会保険上で一定の優遇措置が設けられています。
扶養には「税制上の扶養」と「社会保険上の扶養」の2種類があり、それぞれ異なる基準が設定されています。税制上の扶養では、扶養者の所得税や住民税が軽減され、社会保険上の扶養では、扶養者の勤務先の健康保険や特別な国民年金制度に加入できるメリットがあります。以下では、この2つの制度について、それぞれの特徴と仕組みを詳しく解説していきます。
税制上の扶養は、一般的に「103万円の壁」と呼ばれるもので「扶養者の税負担を軽減する制度」です。税制上の扶養の対象となる要件は以下となります。
この制度では被扶養者が税制上の扶養の範囲内(年収103万円)で働くことで、以下のような恩恵を受けることができます。
社会保険上の扶養は、「健康保険や厚生年金に関わる制度」です。扶養者の収入で被扶養者の社会保障を支える仕組みです。一般的には「106万の壁」「130万の壁」と呼ばれており、基準の年収を超えると社会保険料等の支払義務が生じます。
この制度では、被扶養者は扶養者の勤務先の健康保険に加入でき、医療費の自己負担を3割に抑えることができます。また、高額療養費制度の利用も可能となり、医療費負担の軽減につながります。
パートやアルバイトで働く際に重要となるのが「年収の壁」という考え方です。これは、一定の年収を超えると税制や社会保険の面で様々な優遇措置が受けられなくなる基準のことを指します。
一般的に「103万円の壁」や「130万円の壁」と呼ばれるこれらの基準は、扶養から外れるかどうかを規定するラインとなっています。より経済的に働くためには、これらの壁について正しく理解しておく必要があります。以下では、2024年現在の主要な4つの年収の壁について、それぞれの特徴について詳しく見ていきましょう。
ご自身の年収が103万円未満である場合、税制上の恩恵を受けることができます。
・被扶養者自身に納めるべき所得税が発生しない
年収が103万円を超えると、自身に所得税が発生し、税制上の扶養から外れることになります。103万円とは、基礎控除38万円と給与所得控除55万円の総額です。そのため、パートやアルバイトをしていて、年収が103万を超えない場合は、所得税の支払いは発生しません。
※学生の場合は、「勤労学生控除」という制度があり、年収130万円までは所得税が発生しません。
・税制上の扶養となり、扶養者が控除を受けられる
扶養控除 |
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配偶者控除 |
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ご自身の年収が103万円未満であり、かつ親や配偶者の扶養に入っていることで、扶養者の所得税や住民税の納税額において以下のような恩恵を受けることが可能です。
社会保険に関する最初の壁です。
約106万円(8.8万円/月)以内であれば、扶養者の社会保険に加入することができますが、これを超えると自身の勤務先の社会保険に加入する義務が生じる可能性が発生します。
義務が生じるのは、以下の5つの条件を満たした場合、あるいは、正社員の3/4以上の勤務日数・時間がある場合となります。
「103万円の壁」でも触れましたが、学生の場合、基礎控除(38万円)、給与所得控除の最低額(55万円)の総額103万円に加えて、勤労学生控除(27万円)が適用されるため、130万円を超えると、自身で国民年金や国民健康保険に加入する必要が生じます。
150万円の壁は、配偶者特別控除の満額ラインです。配偶者特別控除額は、年収150万円を境に、段階的に減少していきます。控除額は最大38万円で、配偶者の年収が201.6万円を超えると受けられなくなります。
配偶者控除と同様に、控除を受ける納税者本人の年収金額が1,195万円を超えれば、配偶者特別控除を受けることはできません。
配偶者(被扶養者)の年収 | 納税者本人(扶養者)の年収 | ||
1,095万円以下 | 1,095万円超1,145万円以下 | 1,145超1,195万円以下 | |
103万円超150万円以下 |
38万円 |
26万円 |
13万円 |
150万円超155万円以下 |
36万円 |
24万円 |
12万円 |
155万円超160万円以下 |
31万円 |
21万円 |
11万円 |
160万円超166.8万円未満 |
26万円 |
18万円 |
9万円 |
166.8万円以上175.2万円未満 |
21万円 |
14万円 |
7万円 |
175.2万円以上183.2万円未満 |
16万円 |
11万円 |
6万円 |
183.2万円以上190.4万円未満 |
11万円 |
8万円 |
4万円 |
190.4万円以上197.2万円未満 |
6万円 |
4万円 |
2万円 |
197.2万円以上201.6万円未満 |
3万円 |
2万円 |
1万円 |
※年収の壁で基準となっている金額は、「年収(額面)」であり、「手取り額」ではありませんので、ご注意ください。
年収の壁を意識して働く際には、いくつかの重要な注意点があります。収入の計算方法や交通費の扱い、さらには制度の変更など、見落としがちですが、影響の大きい要素について理解しておく必要があります。以下では、扶養内で働く際に特に注意すべき3つのポイントを解説します。
複数の場所で働いている場合、すべての収入を合算して年収が計算されます。
103万円以下に抑えたい場合、月収の目安は、約8.5万円となります。また、年末調整は、「主たる勤務先」の1社でしか受けられませんので、それ以外の給与については、確定申告をする必要があります。
通勤交通費は基本的に非課税のため、税制上の年収には含まれませんが、社会保険上の年収には含まれます。特に、扶養の範囲内でギリギリまで働きたい場合は、この違いに特に注意が必要です。
扶養や年収の壁は、私たちの生活に密接に関わってきます。ただし壁を越えることが悪いことばかりではなく、ご自身で社会保険に加入していると、傷病手当金がもらえるようになるなどのメリットもあります。また、将来の年金受給額も被扶養者であるよりも増加します。
これらを正しく理解して、ご自身の生活スタイルや家計にとって最適な収入や勤務日数を検討し、扶養の範囲内で働くべきか、扶養の範囲内を超えて働くべきかを確認しましょう。
また、制度は定期的に改正されますので、最新の情報もキャッチしていきましょう。
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大学卒業後に4大税理士法人に入所。大手日系企業や外資系企業を中心に税務申告業務及び税務相談業務に従事。その後M&A部門に異動し、上場企業やファンド等を対象にM&A関連業務及びクロスボーダー取引等に関する税務アドバイザリー業務を担当。 2023年8月よりタイミーに参画し、新しい働き方における税制面の課題解決に向けて日々調査研究を行っている。